新型コロナウィルスの影響で家にいることが多くなった今、世界中のミュージシャンがSNSを通じて様々な発信をしています。
多くのアーティストがコラボしているこの動画、僕もやってみました。
ただ動画にするだけならSNSでも良いのですが、せっかくですので僕なりにこの曲を分析してみたいと思います。
まず初めにキーの設定で迷いました。
E マイナーに聴こえますが、曲の最後で解決感はありません。
このパターンはジャズにもポップスにもよくあります。トニックコードで終わらないため、浮遊感のまま曲は終わります。
マイナーの曲にしてはそれほど暗く聴こえません。なぜでしょうか?
それはこのジャンルの曲でよくある、サブドミナントからの循環進行が曲全体の終止感を弱めているためと思われます。これにはハーモニックリズムなども関わってきます。
アナライズの概要
近年ポップスなどではコードとメロディがうまく合わないことや、トーナルセンター(調性の中心)が分かりにくいことも多く、メロディ主体の曲作りが多いため、様々な角度でのアナライズが必要となります。そのため、コードに基づくファンクション(コードの聞こえ方)を意識したいわゆるハーモニー理論だけでは説明がつきません。
そこでキーを設定する前にいくつかの側面からアプローチしてみましょう
まずは概要を4つ用意しました。
初めは曲の全般的なアナライズから。
フォームは [Intro] – [A] – [B]
基本的にはサブドミナントから始まる循環進行(逆循環)8小節のパターンでGrover Washington, Jr. の Just The Two of Usと同じコード進行です。
イントロは1小節に1つのコードが入り、テーマに入るとそのコード進行が半分の尺で2拍ずつになります。
この曲の聴かせどころは各セクションF7(♯11)で、このコードをどのように捉えるかはキーをどのように設定するかで変わってきます。これについては後述。
イントロは1小節につき1コード、9小節目の1拍半で進むコード
| A-7 B-7 | G9sus |
で加速をつけ、テーマに入るとハーモニックリズムが倍になり、より動きが感じられるようになります。
テーマA, B共に7、8小節目は1小節に1つのコードなので、ハーモニックリズムが減速し、ここで一旦フレーズの収束感を感じます。
ハーモニックリズムについてはこちらの記事を参照してください。
全体的なコード進行として、サブドミナントから始まる循環進行(逆循環)で、先述のJust The Two of Usや椎名林檎の丸の内サディスティックなどR&Bテイストのポップスなどでもなどでよく使われています。
イントロ4小節目のD♭7(#11)は前のコードG7のトライトーンサブスティテューション(裏コード)でCmaj9へより緊張感を持って進行します。
これは「ソ」から「ド」へのテンデンシーが働くと同時に、「レ♭」から「ド」の半音のテンデンシーがあるためさらに強い進行感があるためです。
この曲で使用されている音はE,G,A,B,Dの5音のみのいわゆるペンタトニックスケールで、星野源さんの楽曲はペンタトニックスケールでできていることが多いです。
ペンタトニックスケールはある一定のキーの中でのコードであれば多少の音のぶつかりはありますが許容範囲となり、メロディに安定した印象を与えます。
この曲の場合、Eマイナー、もしくはGメジャーペンタトニックスケールとなります。
(まだキーの設定をしていませんのでこの時点では特にメジャーマイナーの区別はしていません)
イントロの最初のフレーズ(ソソミソラシラ)がこの曲最初から最後まで使われるアイコンのフレーズとなります。
テーマA、Bともにこのソソミソラシラのフレーズが繰り返され、4小節ごとにそのフレーズに対する呼応のフレーズがあります。
目次
コードのアナライズ
コードファンクション(コードの機能)の側面でアナライズをすると以下のようになります。
冒頭に述べたように、この曲はEマイナーと考えるのが妥当です。しかしこの逆循環のコード進行をハーモニックリズム的に考えるとEマイナーで落ち着くと言うよりはG7を介してさらにまたCmaj9へ進もうとして1小節目強拍のCmaj9に戻ってしまいます。
| Cmaj9 | B7 | E-9 | G7 |
|♭Ⅵmaj9| Ⅴ7 | Ⅰ-9 | Ⅴ7/♭Ⅵ |
Eマイナーでアナライズすると上記のようになりますがルートの動きのみをハーモニックリズムと照らし合わせると♭Ⅵ – Ⅴ – Ⅰ – ♭Ⅲとなり、最後の小節(弱拍)の♭Ⅲがトニック(トニックマイナー)のように聴こえることもあります。下記の赤字部分
キーの設定をどうするのか
もちろん、3小節目の強拍でE-7がトニックマイナーになるのでキーはEマイナーと捉えるほうが自然ですが、4小節目のG7をGメジャートライアドやGmaj7としても成り立ちます。この場合Gメジャーキーと考えることもできます。
では、なぜGメジャーキーと捉えても良いのかと言うと、先ほど概要の全般的なアナライズで述べたF7(♯11)のコードが存在するからです。
F7はEマイナーキーにおいてⅤ7のトライトーン・サブスティテューション(裏コード)にあたります。従ってディグリーネームはsubⅤ7となっています。
しかしこのF7はGメジャーキーで考えた場合♭Ⅶ7となり、モーダルインターチェンジ(以下M.I.C.)と考えることができます。
Gキーで♭Ⅶ7(F7)の出てくるモードはドリアン、エオリアンですが、ミクソリディアンの6度が半音下がるスケールでも作ることができます。
この曲で出てくるF7は全て♯11のテンション(B音 = Gの長3度)を含んでいるため、Gのミクソリディアン♭13(♭6)の上にできるコードになります。

それぞれのスケールにできるダイアトニックコードは以下の通りです。
こう考えると、F7の引力はGへ向かうことになります。トーナルセンターがGになると言うことでGキーとして認識できます。
曲の一番最後のコードはF7(♯11)で終わっていますが、非常に浮遊感のあるサウンドでまだもう一つ先に進んで落ち着きたくなるような気持ちになります。
もしこの後にコードを付け足すとすればEマイナーとGメジャー、どちらがしっくりくるでしょうか?2つを聴き比べてみてください。